大判例

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山形地方裁判所 平成8年(わ)103号 判決 1996年12月18日

被告人

本店の所在地

山形県最上郡最上町大字富沢字大明神四四六六番地

代表者の住居

千葉県流山市大字東深井九二一番地の一四五

代表者の氏名

横田健二

有限会社横田ビニール山形工場

本籍

同県松戸市秋山七四二番地

住居

同県流山市大字東深井九二一番地の一四五

会社役員 横田健二

昭和二二年六月三〇日生

(検察官 西谷隆)

(主任弁護人 半澤力、弁護人 近藤卓史)

主文

被告人有限会社横田ビニール山形工場を罰金四〇〇〇万円に、被告人横田健二を懲役一年六か月にそれぞれ処する。

被告人横田健二に対し、この裁判の確定した日から三年間刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人有限会社横田ビニール山形工場は、山形県最上郡最上町大字富沢字大明神四四六六番地に本店を置き、食品用プラスチック容器の製造及び販売等を目的とする資本金三〇〇〇万円(平成六年九月一日以前は二〇〇〇万円、平成四年八月三一日以前は八〇〇万円)の有限会社であり、被告人横田健二は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人横田は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと考え、架空材料費を計上するなどの不正な方法により所得を秘匿した上、

第一  平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三億六六七万四九六三円であったにもかかわらず、平成三年八月三〇日、山形県新庄市五日町字宮内二四一番地所在の所轄新庄税務署において、署長に対し、所得金額が九〇四〇万四三一円であり、これに対する法人税額が三二二七万四五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、この事業年度における正規の法人税額一億一三三七万円七三〇〇円と右申告税額との差額八一一〇万二八〇〇円を免れた。

第二  平成三年七月一日から平成四年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三億九二六七万六八六八円であったにもかかわらず、平成四年八月二六日、右税務署において、同署長に対し、所得金額が二億七四一八万二七二一円であり、これに対する法人税額が一億六九万五一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、この事業年度における正規の法人税額一億四五一三万四〇〇円と右申告税額との差額四四四三万五三〇〇円を免れた。

第三  平成四年七月一日から平成五年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三億九二四四万六七八八円であったにもかかわらず、平成五年八月二三日、右税務署において、同署長に対し、所得金額が二億二二五三万六二七八円であり、これに対する法人税額が八一六八万六六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、この事業年度における正規の法人税額一億四五四〇万二八〇〇円と右申告税額との差額六三七一万六二〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

全部の事実につき

一  被告人横田健二の公判供述

一  被告人横田健二の検察官(8・8・2付、同・6付、同・11付、同・13付、同・14付、同・16付、同・17付、同・18付[二通]、同・19付、同・20付)に対する各供述調書

一  阿部忠義、伊藤舞美、中西一男、吉田茂、横田貞子及び、佐藤隆眞の検察官に対する各供述調書

一  阿部忠男(二通)及び阿部イツ子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  検察事務官(8・8・12付、同・15付、同・19付[本文書き出しが「上記被疑法人らに対する頭書被疑事件につき、旅費交通費」で始まるもの、本文書き出しが「上記被疑法人らに対する頭書被疑事件につき、通信費」で始まるもの、本文書き出しが「上記被疑法人らに対する頭書被疑事件につき、接待交際費」で始まるもの及び本文書き出しが「上記被疑法人らに対する頭書被疑事件につき、雑費」で始まるもの]、同・20付)作成の各捜査報告書

一  検察事務官作成の電話聴取書

一  大蔵事務官作成の売上除外額調査書

一  大蔵事務官作成の架空材料費仕入高調査書

一  大蔵事務官作成の役員報酬等調査書

一  大蔵事務官作成の減価償却費等調査書

一  大蔵事務官作成の租税公課等調査書

一  大蔵事務官作成の接待交際費等調査書

一  大蔵事務官作成の簿外受取利息等調査書

一  大蔵事務官作成の簿外預貯金等調査書

一  大蔵事務官作成の雑収入除外額調査書

一  大蔵事務官作成の積立保証金調査書

一  大蔵事務官作成の受取配当金調査書

一  大蔵事務官作成の未払消費税等調査書

一  大蔵事務官作成の未納事業税等調査書

一  大蔵事務官作成の役員賞与損金不算入額調査書

一  大蔵事務官作成の交際費損金不算入額調査書

一  登記官作成の商業登記簿謄本

第一及び第二の各事実につき

一  堀井勇(7・11・29付[不同意部分を除く]、8・8・15付)及び和田信彦(7・11・30)付[不同意部分を除く]、8・8・16付)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成のバック現金等((株)樟陽商会)調査書

一  大蔵事務官作成のバック現金等((有)丸和興産)調査書

一  大蔵事務官作成の調査報告書

一  登記官作成の「商業登記簿謄本の交付願いについて(回答)」と題する書面

第一の事実につき

一  石山恵子の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官作成の簿外金貯蓄等調査書

一  大蔵事務官作成の株式譲渡益等調査書

一  押収してある法人税確定申告書一綴(平成八年押第一五号の一)

第二の事実につき

一  検察事務官作成の捜査報告書(8・8・19付[本文書き出しが「右被疑法人らに対する」で始まるもの])

一  押収してある法人税確定申告書一綴(同押号の二)

第三の事実につき

一  金子嘉夫及び田中悟の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成のバック現金等(兼松化成品(株))調査書

一  押収してある法人税確定申告書一綴(同押号の三)

(法令の適用)

被告人会社について

罰条

第一ないし第三の行為 いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

併合罪の処理 平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法四五条前段、四八条二項

宣告刑 罰金四〇〇〇万円

被告人横田について

罰条

第一ないし第三の行為 いずれも法人税法一五九条一項

刑種の選択

第一ないし第三の各罪 いずれも懲役刑

併合罪の処理 平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第一の罪の刑に加重)

宣告刑 懲役一年六か月

刑の執行猶予 平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法による改正前の刑法二五条一項一号

(量刑の事情)

本件は、食品用プラスチック容器の製造販売等を目的とする被告人会社の代表取締役であった被告人横田が、連鎖倒産防止ため及び豆腐パックのいわゆる一貫生産システムに備えた設備投資のためなどから簿外資金を作ろうとして、平成三年六月期から平成五年六月期までの三事業年度にわたって、架空材料費の計上や売上の一部除外などの不正な方法により、同会社の所得を秘匿し、三事業年度分合計一億八九二五万四三〇〇円の法人税を免れたという事案である。

被告人らが簿外資金を作るために脱税を決意したこと自体には酌むべき点はなく、犯行態様も、仕入先、売上先を巻き込んだ計画的なものである上、材料費として計上した仕入代金についてはその大半を後に実際に返還させるなど裏金作りに向けて徹底しており、脱税額も少なくなく、加えて、右簿外資金の使途も多様であり、一部は被告人横田の美術品購入に向けられるなどその利得欲も少なからず窺われ、しかも、税務当局の査察が入った後も、税務関係者と称する者に二一〇〇万円もの大金を投じて本件のもみ消しを図ろうとするなど罪証隠滅の意欲も認められる重ねての非難も免れ難い行為に出ていることをも併せ考慮すると、被告人らの犯情は芳しくなく、刑事責任は軽視できない。

しかしながら、本件益金隠しは、当時の被告人会社の主要な得意先が偏り、右得意先の手形不渡りがあれば連鎖倒産は免れなかったという事情のもとでこれを防止しようとしたり、事業拡張をしようとしたことなどに起因しているのであり、犯行に至る経緯には同情すべき点もなくはないこと、右簿外資金の使途も大半は被告人会社の業務関連支出に充てられたこと、被告人会社は、国税局に指導された修正申告に従って、法人税の本税、重加算税等をほぼ完納したこと、今後は経理体制を充実して納税義務を果していく姿勢も示していること、被告人横田は、公判廷において、本件各犯行を素直に認め、反省の態度を示しており、また、本件各犯行により逮捕・勾留されたほか、本件脱税が新聞報道されるなど相応の社会的制裁を受けていること、被告人横田には前科前歴はなく、今後も被告人会社の従業員などから健全な経営を期待される立場にあることなど、被告人らのために有利な、あるいは酌むべき事情もある。

そこで、これら諸般の事情を総合考慮して、被告人らに主文掲記の刑を科した上、被告人横田に対しその刑の執行を猶予するのが相当である。

(求刑 被告人会社につき罰金五〇〇〇万円、被告人横田につき懲役一年六か月)

(裁判長裁判官 井野場明子 裁判官 本間健裕 裁判官 沼田幸雄)

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